ちょっとイイ暮らし研究室

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スランプ・焦り・劣等感に揺れながら——中堅研究者の“比べない”セルフケア習慣

スランプ、焦り、劣等感——「自分だけ進んでいない」と悩む中堅研究者が、比べる苦しさと向き合いながら見つけた、小さなセルフケアの習慣。静かな変化が、心に少しずつ余白をもたらしてくれます。
English version | Coping with Stress and Comparison: Japanese Self-Care Rituals for Researchers

「自分だけ進んでいない」と感じた日のこと

「なんで自分だけ、こんなに進んでないんだろう──」。
帰宅ラッシュの電車を待つホームで、Aさんはポツリとつぶやきました。 スマホの画面には、同期の研究者が新しい論文の受理を報告する投稿。少し前には、別の仲間が大型のプロジェクト採択を喜ぶツイートをしていたばかりでした。 「いいなあ、すごいなあって思う一方で、なんで自分はまだここにいるんだろうって、心の奥に沈んでくるんです」
そう言ってAさんは苦笑いを浮かべましたが、その表情には余裕のようなものは見られませんでした。 今のAさんの生活は、研究、論文執筆、学生指導、学会対応、内部の運営業務に追われる毎日。若いころのように徹夜でデータと向き合えるわけでもない。朝、目が覚めた瞬間から疲れが残っていて、気づけばコーヒー片手にメールの返信だけで午前が終わる。
「周りと比べてもしょうがない」と頭ではわかっていても、心はいつもざわついてしまう。何かが足りていない、遅れているという焦りが、常に背中を押してくるのです。 駅に入ってきた電車の風を浴びながら、Aさんはふっと目を閉じました。 「でも、こんな自分を責め続けるのって、もう疲れるんですよ」 その一言が、妙に胸に残りました。

焦りと向き合いながら、自分のペースを取り戻す

数日後、大学のカフェテリアで偶然再会したAさんは、前より少し穏やかな顔をしていました。
「最近、ちょっとだけ意識を変えようと思って」 コーヒー片手に笑うAさんについて研究室へ向かうと、そこには思った以上に静かな空気が流れていました。 「朝一番にやることを、メールじゃなくて、“自分の時間”にしたんです。少しだけでも、今日は何を考えたいかを整理してみようと思って」
その言葉には、強がりではなく、静かな覚悟のようなものが感じられました。
机の上には論文のメモに混じって、気になるアイディアをまとめた紙片や、学生からの質問メモが丁寧に並べられていました。 「焦る気持ちは、ゼロにはならないんですよ。でも、比べてばかりだと、自分がどんどん小さくなっていく気がして」
周囲の情報に飲み込まれず、自分のペースを取り戻すにはどうしたらいいか。Aさんはそこに向き合いはじめたのだと思います。 「夜にどうしても気持ちが落ち込む日があって。そういう時は、何かでスイッチを切り替えるようにしてます。香りとか音とか、五感に頼るのも意外と効くんですよ」
気持ちを無理にポジティブに持っていくのではなく、“落ち込みの谷”を浅くする工夫。そう語るAさんの横顔には、どこか余裕が戻ってきたように見えました。

研究のスランプを支える、小さなセルフケア習慣

その日、研究室を出るときにAさんが見せてくれたのが、小さなアロマディフューザーでした。 「寝る前とか、ちょっと気持ちを切り替えたいときに使ってるんです」 香りはほんのりミント。研究中にもそっとデスクに置いて使っているそうです。 「香りって記憶とつながってるんですよ。これを使うと“いったん止まって深呼吸”って、自分に合図が送れるような気がして」
調べてみたら、香りによる脳のリセット効果やストレス緩和の研究もいくつか出てきて、ちょっと面白くなってしまったとも言っていました。 「すごく疲れてるときこそ、少しだけ手をかけてあげる。それだけで、次の一歩が変わってくる気がするんです」
そんなふうに話すAさんは、自分の足元を確かめながら、ゆっくりでも前に進もうとしているように見えました。
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豆知識:気持ちを整えるための研究者的セルフケアはこちら



思考を手放すスイッチに、そっと香りを。

座るだけで、背中と気持ちが軽くなる。

考えすぎた日は、目も気持ちも、あたためて手放す。


比べる気持ちが小さくなったとき

Aさんの悩みが劇的に解決したわけではありません。
けれど、以前のように「なぜ自分だけできないのか」と責める声は、少し小さくなったそうです。 他人の成果を目にしたとき、まずは深呼吸して、自分に戻る。
そのための道具や習慣を少しずつ持つようにしたことで、焦りの波に飲まれにくくなったと話してくれました。 「研究って、結果だけじゃなくて、続ける力のほうが大事かもしれないって、最近思うんです」
Aさんがふとこぼしたその言葉には、長くこの世界で戦ってきた人の実感がこもっていました。
▼研究者向け記事「研究者のストレス対策|“ながら”で整える心と体、そして研究環境」もどうぞ better-life.hatenadiary.jp


豆知識:気持ちを整えるための研究者的セルフケア

短時間でも「意図的に休む」習慣を

10分でも「休む」と決めてスマホを閉じるだけで、脳は刺激の整理を始めます。研究の合間に「なにもしない時間」をあえて作るのが集中力の鍵です。

香りで気分転換するなら、柑橘 or ハーブ

レモンやペパーミントなどの香りは、交感神経を適度に刺激してリフレッシュ効果を生むと言われています。研究中の軽い切り替えに最適です。

ToDoリストより「できたことリスト」を

やるべきことよりも、できたことを振り返る習慣が、達成感と自信を取り戻すきっかけになります。過剰な自己否定を防ぐには、視点の切り替えが重要です。

比べたくなったら「紙に書いて」距離を置く

他人との比較が止まらないときは、今の気持ちを紙に書き出してみましょう。客観的な視点が戻りやすくなり、自分の立ち位置を冷静に見直せます。

「続ける技術」を磨く

毎日できなくてもOK。「やる気があるときにやる」よりも、「できるときに無理せずやる」ことを前提に仕組みを作ることが、長期的な継続につながります。